下野新聞「しもつけ随想」(平成27年4月22日)
Posted on 2015年5月7日(木) 11:21
下野新聞 2015年(平成27年) 4月22日(水曜日)
合同説明会はつらいよ
八木 仁
現在各社で、、来年度の新卒者を対象にした合同企業説明会、いわゆる合説が開催されている。新卒採用を計画している企業が一堂に会し、学生たちが関心のある企業の話を聞くというものだ。
机を挟んで、自社の業務、内容を説明する担当者と熱心に話を聞く学生たち。そのような写真がこの時期になると、よく新聞に載る。
しかし現実は、企業の知名度等によって、学生が1人も座っていないというところもあるのだ。
私が社長に就任した直後、初めて参加した合説では、いすに座り、キョロキョロし、時々ウロウロすること以外やることがなかった。午後1時から5時までの開催で、終了間際にやっと1人という状況であった。
合説への申し込みが遅かったので、メインの会場には入れず、外の廊下の一番端に、ブースが割り当てられた。机の横は喫煙所。たばこを吸っていた学生とは一言二言話しはしたが、前の席には来てくれなかった。
途中何回も参加企業ガイドを見ながら、会場の学生と企業の様子を確認した。「どうしてうちには学生が来てくれないのか?」「おかしい!」「みじめだ!」と思った。
求人広告やハローワークでは求職者が来ない時、他社の状祝が見えないので、景気やタイミングのせいにできる。それが合説で、学生が座れず立って聞いている他社のブースなどを見てしまい、いろいろと考えざるを得なかった。
われわれ企業家の中には合説で同じような経験をし、会社を変えてきたという者が多い。この情けない合説は、私にとっても経営の考えを変えるきっかけとなった。
企業には、一二つの側面がある。一つ目は「科学性」。どんな商品・サービスを行っていくのか。二つ目は「人間性」。社員との関係はどのようなものか。三つ目は「社会性」。関係先を含め社会との関わりはどのように考えていくのかというものである。
当時の経営は、一つ目の「科学性」を重視し過ぎており、「地域」との関係性が強い残り二つの側面はおろそかになっていた。その後は「地域」での在り方も意識して、三つの側面を強化してきた。
「中小企業家同友会」では、良い会社、良い経営者を目指すだけでなく、企業として存在していくために、地域社会も含めた経営環境の充実も目指している。会社、経営者が良くなっても、関係先、そして地域に働く人がいなくなると、企業は回らなくなるからだ。
他県に比べて栃木の若者は、地元で就職するよりも都会で働きたいという人が多いと聞く。高校卒業後、修学のために離れることは仕方ないが、就職はぜひ県内を検討してもらいたい。
ところで県内の高校の評価にはいろいろあるが、人口減対策の観点から考えると、卒業生が県内で暮らしている人の多い学校が良い学校ではなかろうか?
「地域に働くところがない」というのであれば、高校のカリキュラムに「起業プログラム」を組み込んでみてはと思う。
県中小企業家同友会代表理事。
神奈川県出身。
民間企業に勤めた後、1985年に熱成形加工のシンデン(本社・小山市)に入社、97年から社長。「成長戦略の根本は人」とし全社員の年齢を構成表で管理。先輩から後輩への技術伝承に力を注ぐ。
小山高専地域連携協力会副会長。
法政大卒。茨城県古河市在住、55歳。