『 No.116 』カテゴリーの投稿一覧

No.116_目次

発行日:2020年 1月1日
発行者:栃木県中小企業家同友会
〒321-0968 栃木県宇都宮市中今泉2-3-13
TEL 028-612-3826 FAX 028-612-3827
E-mail:t-doyu@ninus.ocn.ne.jp
URL:http://www.tochigi.doyu.jp/
企画編集:広報委員会 印刷:有限会社 赤札堂印刷所
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No.116_News Topic:栃木のNEWS

News Topic 01 栃木のNEWS
~障がい者問題全国交流会 in 琵琶湖~

去る10月17日~18日滋賀県大津市の琵琶湖ホテルにて第20回中同協障がい者問題全国交流会に全国から500名を超える参加者が集い開催され「多様な人々が輝くために」をテーマに栃木同友会が一つの分科会を担当いたしました。

報告者は株式会社鹿沼自動車教習所代表取締役の古澤正已氏とNPO法人CCV理事長の福田由美氏、座長は有限会社ウィステリアエステートの斎藤秀樹氏が担当しました。

以下に報告のまとめを掲載いたします。

多様な人々が輝くために
発達障害者等運転免許取得支援 「運転免許つばさプラン」®

【古澤氏報告】

1.斜陽化の時代、斜陽化している教習所

元公務員の私が定年退職してからこの仕事についたのには二つの理由があります。一つは社会的な意識が高い世代だったということ。一つはこの仕事は人生最後の自己実現のチャンスになるのではないかということ。

今から15年前、私が退職した頃の話題は、赤字国債が1千兆円になり、県も市も借金していて、国民ひとりあたり1千万円を超えたら四人世帯はある日突然4千万返せるのかでした。その一方では日本の経済は斜陽化が始まっていました。一方、新聞を見るとパラサイト、ニートひきこもりと言われる人が増えていて、様々含めて担税能力のある人のうち15%くらいが税金を払わない人になってしまうのではないか。1千兆円の国債がある一方で税金を納める人が減っていく。そういう状況の中で、日本と同じように斜陽化する鹿沼自動車教習所に専務として迎えられました。

2.教習所業界の歴史と今日

自動車教習所業界は、戦後日本のソーシャルビジネスの象徴的な成功事例でした。日本の急激なモータリゼーションと安全運転という社会的な課題に対して、制度と民間資本と人材育成を一挙に解決しようとするものでした。はじまってからしばらくは上り坂の時代でしたが、20年前からは人口構成が変わり地方都市では凋落が始まる。鹿沼のような10万以下の都市では、教習所がなくなるのではないかと感じるようになりました。それでも会社の財務状況や顧客の減少傾向はなだらかで危機意識には至らず変わろうとしない。近い将来、自動運転の普及などの様々な環境の変化が起こり、教習所は徐々に消えていく業種なのだということを考えはじめました。

就任当初私はこの業界の構造を基本から考えてみました。構造的に見ると支出の半分は人件費です。
しかし、11月から3月まではものすごく忙しく4月1日からはお客さんはいなくなる。この繁閑ビジネスの穴を埋めようとしました。しかし、どれも中々うまく行かず悩みは深まるばかりでした。

3.10年後のわが社

我社は顧客獲得のために、値下げしてぎりぎりの経営状況でいました。「十年後はこういう会社になるんだということが説明できない社長は社長じゃない」友達からきつい言葉を突きつけられました。

あれこれ調べる中で、ひきこもりとか、ニートとか、そういう人が閑散期にうちに来てくれればという考えが浮かびました。鹿沼や他の街から50人ずつ、全部うちに来れば、閑散期は埋まる。私は考え抜いてみました。決断し社員全部集めて社内説明会を行い、スタートをきりました。

当時、鹿沼では、社会に出られない子供たちを面倒見ている中学の先生がいました。今つばさプランをサポートしてくださっているCCVの福田由美先生です。私はその噂を聞き、すぐに連絡、お邪魔しました。すると「手伝いますので一緒に社会貢献しましょう。」そう後押ししてくれました。

その後、ニートや引きこもりついての造詣が深い宇都宮大学の梅永教授に相談しました。梅永先生は言われました。「少しずれているよ、ニートとかひきこもりというのは状態像で、その本質には発達障害が隠れている場合が多いのだよ」と。それまで漠然としていたものが、発達障害者対象の教習ができればいいのではないかと明確な方向性が見えました。

発達障害向けの免許証であれば、全国から人が集まるかもしれない。このプランが出来上がれば、大きなニーズになるかもしれないという構想が生まれたのです。

障がい者問題全国交流会 報告

4.発達障碍者の免許証取得に向けたパイロット事業の始まり

いざ具体的に取り組んでみると社内には人材がいません。そこで、専門性と経験を持っているCCVに教えを請い、宇都宮大学の梅永先生と産学連携を図りました。役場での経験から、やるだけやった最後に、制度上駄目だと言われては困ると思い、教習所の上部団体である全指連専務理事の吉田さん相談しました。つまり元栓を探りました。吉田さんは発達障害について自らも勉強してくれて、社会的に価値がある事業だからと協力をしてくれたのです。

福田先生、梅永先生、吉田専務理事に出会い、後押しをいただき、パイロット事業が始まりました。

5.4つの壁

実際に活動してみると大きな壁が四つありました。

一つ目の壁は発達障害者が免許を取る力があるのか?ということです。実は、発達障害の子も運転のテクニック自体は問題ないです。それよりもメンタルの弱さや、コミュニケーションの問題だということがわかりました。

第二の壁は、道交法で決まっている免許制度に、特別な仕組みが入るのかということです。指導員でないコーディネーターが後部座席に乗りますので警察からは指摘を受けます。この対策には全指連の後押しが役に立ちました。大学との研究事業だということが認められ、例外事例がOKになったのです。つまり制度上の理論付けは公共性が必要ですし、時代の後押しも必要です。

第三の壁は料金が高いこと、それでも採算性が難しいことです。パイロット事業は「つばさプラン」としました。現在、価格は46万5千円一般の倍です。ですがクレームはほとんどありません。受講生にとってそれだけ価値のあることだったのです。

第四の壁は、赤い字の解消と受益者の限界です。私どもの専門性の高すぎる教習手法そのままでは他の教習所に拡げることはできないということです。全国で水平展開できれば年間80人しかとれなかった免許証が年間二千人から三千人の規模になります

その中で、最も大きな課題は発達障害者の個性・得手不得手を詳細調査する専門性の高いアセスメントでした。たくさんの数ページにわたるプロフィール調査と親子面談、知能検査を行っていたのですが、そのしくみを簡略化しないと他校への普及・移植はできません。そこで他でも出来るように独自にアセ
スメントのシステム化とTPA調査シートを開発し、指導マニュアルとセットにして壁を突破しました。

6.スイッチを入れる『つばさプラン』

引きこもり54万人、ニート56万人と言われているその水面下にはその何倍もの発達障害の人がいて人口の6.5%と言われています。つばさプランに来ている方の半数は不登校経験者です。身分証明書代わりに免許証を求める方も多い。免許証取得は自信になります。その自信から自立の芽生えが出てくると交友関係が広がって、趣味や友達が出来る。家族の中でも「偉いねっ」と言われる存在になる。免許証取得という成功体験をきっかけに、もっと出来るんじゃないかというスイッチが入る。「つばさプラン」の免許証っていうのはそのスイッチを入れる効果があるのです。

つばさプランでは入り口の前から出口の先まで支援し、通っている間の生活支援も行います。コーディネーターは、指導員と生徒の間に入っての相談役であり、学科の解説をする。そして心の支援まで行います。

IQ50の子でも、こつこつ教えると脳は成長し、免許証を取得できるまでになります。「うちの子は今とっても幸せです」と言ってくださる方もいます。

『つばさプラン』図

7.高まるニーズ

つばさプランの受講生は年々増えて、去年が62名です。問い合わせは192名。ネットへのアクセス件数は月に6千件。北海道だけで月に500件です。ところが北海道からは一人も来ていない。引きこもっていた子が、北海道から栃木県に来るというのは容易なことではないんです。

遠くは九州から来ています。四国から受講した方は免許がとれて、嬉しくなったお父さんが新車を買って鹿沼まで、トランクにお土産をいっぱい詰めて家族でドライブして来てくれました。こういう体験をすると社員が、ものすごくやる気になるんです。

つばさプランでは100人のお客様に、100様の教え方をします。指導員はいつも同じ教え方をしません。人によって教え方が変わるんです。
指導員は学科では・・、技能では・・、メンタル支援では・・、など細分化し弱いところを支援します。生活の乱れとか、慣れない場所とか、人よりも不安を感じるとか、わかったうえで教習する。しかもCCVの人が、朝食を届けて、声掛けする。だから頑張って登校してくれます。

8.社内に起きた化学変化

「つばさプラン」の売り上げは全体の二割弱です。二割ですけど、社員に化学変化が起きるんです。お客さんに喜ばれることで社員は仕事に生きがいを見出します。やる気のある社員も増えてくる。好循環が生まれ、全てが前向きになります。みんな素敵な人になるんです。会社が気持ちいい集団になっていて、これが生きがいにつながっているのだと思います。

【福田氏報告】

9.CCVとは

NPO 法人CCV(クリエイティブコミュニケーションビレッジ)の福田由美と申します。私どもの役割は教習受講生の方々が「つばさ」を広げるための「あおぞら」をつくることです。

設立10年の今、CCVは教育と福祉の融合を行っています。自宅でのフリースクールに始まり、今は小学部、中学部、高等部と18歳を過ぎた方のために専攻科も作りました。

鹿沼自動車教習所に来て、そのあと引き続きお世話している皆さんも、18歳以上です。一から勉強したいといって小学校のドリルから取り組まれる方もいます。関わっている生徒たちも100人を超えました。

CCVの個別支援の活動場所は今鹿沼市の地域全体に広がっています。

教育分野では、不登校引きこもり支援、保護者の定例会、子ども食堂、子供の学習支援、福祉分野では、就労継続支援B型、就労移行支援、生活介護、放課後等デイサービス、グループホーム事業を行っています。

五つの支援 図

10.五つの柱で支援(前図)

就労支援の場所では農業や高齢者のデイサービスがかかせません。

不自由な手で裁縫をしているおばあさんの横で何も動けなかった不登校の若者が対話をしながら一緒に働いていたり、怒りん坊のおばあさんの横でお茶を入れているのが怒りん坊の女の子で、おばあちゃんに「そんなに怒んないで、お茶入れてあげるから」と言っていたりするほほえましい情景があります。お年寄りと若者が組むことで、本当に面白い化学変化が生まれます。誰かのためだと人は動けますし、同年代だとできないことが劣等感になりますが、異年齢だとあんまり気にならないようですね。

チックがひどい子がいて絶対運転免許は無理と思っていたのですが、余暇支援で演劇をすることになりスポットライトを浴びて周りから受け入れられ、自信が付き、どんどんチックが改善されて今は免許を取って就職までできました。

また、CCVでは、就労体験を、レポートにすることで、高卒単位に認定されますので、高卒単位と免許を同時に取ることが可能となっています。

保護者会では親御さんたちは涙を流しながら成長の様子を語り合います。そして、みんなで一人の子の問題にあの手この手いろんな風に支援の手を伸ばしてくれます。

先日は企業と地域が一体となって支えあうコミュニティづくりのひとつの協働モデルとして、教習所の方々と私たちのプランが「輝く栃木づくり」の最優秀賞をいただくことができました。

11.「つばさプラン」に繋げるための「あおぞらプラン」

あおぞらプランの流れには、メンタル面の支援と学習面の支援のふたつの柱があります。

入所前検査で、協調運動0点、単語0点で、ラジオ体操の真似ができないとか、右折、左折がわからないという方もいらっしゃいます。その方も免許は取りたいと切実に思って来られています。そこで具体的にスモールステップでの指導を組み立てていき、何回も繰り返しながら力を付けていきます。3年かけて免許取得をされた方もいらっしゃいます。

また、あおぞらプランでとても大事なのが合宿生活支援です。昼夜逆転など規則正しい生活が難しい方たちが自宅を離れることで一回リセットされて、生活の改善ができるように支援をしていきます。

更に免許取得後ですが、就労に向けて、あるいは自立に向けてという目標を持ちます。更にハードルがあがりますが、その部分をCCVの就労支援事業のプログラムでトレーニングをしていきます。

今では引きこもりの方が鹿沼市に移住して、一般企業に通ったり、あるいはグループホームで自立されたりしています。この取り組みから鹿沼に移住してきた人は十数人になります。

12.凸凹パズル

運転免許取得事業からご本人と家族の生活が劇的に変わっていくのを目の当たりにしています。

以前運転免許を取得した方がジグソーパズルをプレゼントしてくれました。(写真)2011年に頂いたのですが、「CCVのイメージのパズルです。」といって渡してくれたのがうれしくてずっと貼ってあります。

パズルのピースには凸凹がありますが、発達障害の子たちもすごく凸凹があって、突出している部分があると思ったら引っ込んでいる部分があり、そこを埋める凸凹もあって組みあわさってひとつの幸せ村の絵が出来ている。パズルのピースが、同じ形である必要はないのです。「みんな、それぞれ、そのままでいいよね。」を合言葉に職員さんと利用者さん、地域の皆さんが一緒にかかわりあって楽しく暮らしていくことを目指しています。

CCV イメージパズル写真

栃木県中小企業家同友会

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