No.121_News Topic:エッセイでちょっと一息

News Topic 04 エッセイでちょっと一息
~プランBでいこう!~

白衣の下スラリと伸びた美脚にピンヒールの靴。美貌の女医がきっぱりと言い放つ、「大丈夫、わたし絶対失敗しませんから!」ああ、なんて頼もしい。あんな女医さんに手術されたい。全国の男性諸氏に大人気の医療ドラマが終了した。とにかくリアルな手術シーンと如何にも本当っぽい難解な医療用語、世相を取り入れたタイムリーなストーリーに引き込まれた。

患者を忘れ権力闘争に明け暮れ、彼女を妨害しようとする白い巨塔の医師たち。彼らをものともせず神業的なスキルで次々に難手術を成功させるだけでなく、病院組織の問題までバッサリと切りまくる「フリーランスの医師」は、数ある病院ドラマ随一のニューヒロインだった。

生身の体を切り刻み、症状を劇的に改善する「外科医」は、病院の中でも花形だと思うが、現実は常にリスクと隣り合わせで相当強いメンタルを要求される職業だと思う。絶対に失敗は許されないけれど、人間に絶対はあり得ない。

もう、ずいぶん以前になるが、僕も胆石の手術を受けたことがある。腹腔鏡手術と言ってお腹に穴を開けてファイバースコープを入れ、覗きながら行う手術だった。

手術は初めてだったので不安がる僕に対して、執刀医の先生は「開腹と違って身体の負担が少なく、術後の回復も早い」などと一通りの説明をしてくれた。

それでも、心配する僕に対し先生は言った。「大丈夫ですよ、わたし今までにもう百例以上の同様の手術をやってますから。結果も、九十五パーセント以上成功してます」「え、その五パーセントはどうなったんですか」その先生は評判の高い名医なのだが、その分合理的で斟酌無しの説明をする方の様だった。僕の動揺を見透かしたように、こう続けた。

「誤解しないでください。患者さんの状況は千差万別で、高齢の方やほかの病気を併発している方、実際に覗いてみたら癒着がひどく切除困難な方など当初の予定通りいかないケースは、どうしてもあります。失敗するわけではありませんよ」

僕は少し不安を残しながらも納得して同意書にサインしたのだった。確かに百パーセントは現実にはないのかもしれない。

ドラマの女医が百パーセント成功するのは、不測の事態にも対応できる次善の策を用意しているからである。手術続行不可能な問題を前に、皆が追い詰められ、あきらめかけたその時に、彼女は高らかに宣言するのだ。

「術式変更、これより〇〇式○○を行う」この次善の策がどれだけ意外性があって難しいか、早い段階から周到に準備されていたかがドラマの見せ所だ。毎回、視聴者は予想を超えた展開に喝采をおくるのだった。

この「次善の策」は外国映画だと「プランB」と呼ばれたりしていて、アクション映画ではお約束の展開である。例えば人質救出作戦で、敵に脱出ルートを見抜かれて動揺するチームに対し、ヒーローは言う。

「心配するな、これよりプランBに移る」すると、意外なところにルートがあったり武器を調達出来たりして(しばしば、「あり得ねーだろ」と突っ込みを入れたくなるような、ご都合主義なのだが)みごと危機を突破できるのだった。要するに、「計画変更」と言わないのは「想定内」だから安心しろという事だ。

でも、考えてみるとプランBを用意しておくのは、我々が仕事を進めるうえで必須の事だと思う。

僕らのプロとしての仕事も失敗が許されない。品質が良いのは当たり前、決められた予算内で完成させなければならないし納期は絶対である。日々、ぎりぎりの条件で仕事をこなす僕らにとってプランBは必須で、これを用意しておける事がプロの条件と思いながら仕事をしている。プロに失敗がないのはこれがあるからだ。

僕の胆石手術の場合も、無事成功に終わったのだが術後の先生の説明で、「あなたの場合、お腹に手術跡が三か所あるでしょう。当初、二か所だけで十分な予定だったのですが、覗いてみると予想外に内臓脂肪が沢山ついていて難しかったので、もう一か所開けさせてもらいました。」と、言われた。

このお陰?で、その後僕は発奮してダイエットに励み、運動する習慣も出来て以前より健康になった。さすがはプロの仕事。先生のプランBは副次的な効果も生んだのであった。

さあ、新型コロナ不況で受注が激減する昨今、次の会議ではこう宣言しよう。
「心配するな、これより経営計画はプランBに移行する」

(有)赤札堂印刷所
小山研一

栃木県中小企業家同友会

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