No.82_連載01:私たちは「中継者」

連載 01 私たちは「中継者」(下野新聞 2015年2月11日掲載)

連載01 下野新聞

当社は創業48年を迎える。父の後を継ぎ、私が社長となり、19年が経つ。引き継いでしばらくして「会社を創った時、こんなに長く続くとは思わなかった」と父がつぶやいた。

当時、父が社長の時には出なかった問題が噴出し「まったく後のことを考えていない!」と少しイライラが募っていたが、父の言葉で「創業者」を陸上競技になぞらえ理解した。

父親たち「創業者」は100メートル走だと思いスタート。それが200メートル、400メートル……、そして長距離となり、競技場を出てマラソン。疲れてきて「ああ、これは駅伝だったのか」と悟る。そして、そこから誰にタスキを渡すのかを考え始めるのか……。

「中小企業家同友会」は1957年に東京で誕生し、全国47都道府県、約4万4000人の会員を擁する経営者団体である。個人事業主を含む中小企業経営者とその後継者、それに準ずるもので構成されている。

58年前、なぜ「企業家」という名称を使って設立したのか経緯はわからないが、私はこの言葉に引かれる。

「企業家」と「経営者」は同義語で、「企業家」の「家」は「者」と同じ意味だ。しかし、武道家、茶道家などの「○○家」は、伝統技能などを継承する者を意味する。結婚式の看板、「○○家」は一族や家族全体を意味するが、夫婦・親子の綿々としたつながりも想像させる。さらに大きくなると「国家」だ。「家」という字は背景に縦軸と横軸、つまり「広がり」と「歴史」を背負った字だと思う。

いろいろな方から「企業は永続するのが原則」と教えられてきた。構成する従業員と代表、さらに大半のところは仕事も入れ替わることにより企業は存続する。

そのためにまず「企業家」は、その代表として、先代たちが創り上げ、守ってきたものを理解し、良いところは継承し、おかしなところは改革して、企業のかじ取りを行う。そして引継ぎ時期に向かって、先代からのものと自分が積み重ねてきたものを次の世代に託していく。

ところで昨今、後継者がいないことによる廃業が問題となっている。私は、この「後継者」という言葉に違和感を覚える。「後」の字に「前編、後編」で物語の完結を連想させられるからだ。

私は「後継者」ではなく、「中継者」の方が妥当だと考える。

後任を選び育て、次の「中継者」が意気揚々とスタートできるよう準備することは、前の「中継者」の仕事である。

タスキを渡したとき、「後は俺に任せろ!」とスタート。その背中を「頼もしい!」「あいつならできる」と感じながら送り出すことは、私たち「中継者」の夢だ。

当社に父の創るものにあこがれて入社してきた者がいる。私たちもこの父親のように、先ずは「あこがれ」や「目標」とされる「中継者」でありたいと思う。

八木氏

八木 仁(やぎ・ひとし)
栃木県中小企業家同友会代表理事。
神奈川県出身。民間企業に勤めた
後、1985年に熱成形加工のシンデ
ン(本社・小山市)に入社、97年
から社長。「成長戦略の根本は人」
とし全社員の年齢を構成表で管理。
先輩から後輩への技術伝承に力を
注ぐ。小山高専地域連携協力会副
会長。法政大卒。茨城県古河市在
住、55歳。

栃木県中小企業家同友会

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