No.179_コラム
Posted on 2025年4月30日(水) 07:00
コラム
カルチベートされる
ちょっと長い引用。
「勉強というものは、いいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間のゆるす限り勉強して置かなければならん。日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。覚えるということが大事なのではなくて、大事なのは、カルチベートされるということなんだ。(中略)学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても。その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものなのだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ! これだけだ、俺の言いたいのは。…」
太宰治の「正義と微笑」の中に出てくる言葉。若き黒田先生は、最後の授業で主人公たち生徒にこう語った。「真にカルチベートされた人間になれ!」先生は言う。
太宰は、何をいいたいのか? 同友会を使って説明してみる。
「同友会ってどうゆうかい?」と聞かれることがある。公式通りなら、「良い会社をつくろうとする経営者の会」「良い経営をしようとする経営者の会」あたりだろう。
栃木同友会にはないが、他県の同友会には同友会大学、経営者大学という、幹部社員・後継者・経営者自身が総合的な能力を身につけるための講座がある。肝は、総合的な能力。
太宰の言う、「その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているもの」を、大人になってもつかもうという学びにあたる。
学んだから何か直接的な功利が得られるわけではない。得られるものは茫洋として、掴みどころのないものだとおもう。でもそこで学んだものは、自分の中に、「一つかみの砂金」として残る。世の中を理解して困難な世界を読み解くための基礎力となる。
同友会の学びは、直接的に役に立つものもあれば、中長期的に自身を成長させるものもある。特に、自分自身の成長には、ものすごく時間がかかる。10年単位はザラ。
黒田先生が言っていることは、自分を大切に育てなさいということなのだと思う。
そういった学びをするための、一助として、今年も栃木同友会では、5月には総会、11月には経営フォーラム、また6月からは経営指針をつくる会、年間を通じては支部活動や共同求人・インターンシップ受け入れ活動、ダイバシティ委員会などの行事と講座をおこなう。
5月の総会では、基調講演として、京都大学名誉教授、地域経済学がご専門の岡田智弘先生をお呼びする。これから地方で何が起きていくのかを、長年の地方経済の研究された方の視点で語ってもらう。
11月には経営フォーラムをおこなう。都留文科大学教授の古屋和久教授をお迎えして、主体的・対話的で深い学びを進める教育の実体をお聞きする。自社の教育にも必ずや役に立つものと思う。
また、喫緊では、6月から経営指針をつくる会をおこなう。変化の時代にあらためて自社を見つめ直すのに活用してもらいたい。去年から続く、大学生とのコラボレーションによるインターンシップ受け入れ活動もますます活発に活動している。
みなさん、ことしも是非一緒に活動してみてほしい。
太宰が言っている、カルチベートは英語のcultivateのことで「耕す、育てる、磨く、高める」という意味だ。人も会社も促成栽培はできない。だからこそ、タイパ(タイムパフォーマンス)・コスパ(コストパフォーマンス)ではなく、きばらず・せかず・あきらめずで行きたい。
[文責]専務理事 石綱知進