No.169_コラム
Posted on 2024年6月30日(日) 08:00
コラム
「騙されないために学ぶ」
同友会の先達、故大久保尚孝氏、元北海道同友会専務理事の言葉に、「騙されないために学ぶ」という言葉がある。なかなかに棘のある言葉だ。なぜ大久保さんはこんな言葉を残したのだろう。ちょっと考えてみる。
伊丹十三をご存知だろうか。40代以下の方はあまりご存じないかもしれないが、むかし、「たんぽぽ」や「マルサの女」で、一斉を風靡した映画監督だ。その父親、映画監督の伊丹万作の著書に「戦争責任者の問題」という本がある。その中に、「だまされるということ自体がすでに一つの悪である」という言葉が出てくる。
知識不足でもだまされる、自分の中に軸がない、モノサシがないことでもだまされる、というのだ。また、禅問答の公案の中に「主人公」というものがある。
あるお寺の住職が、毎朝起きるときに、「主人公」と自分に呼びかけるという話だ。
“主人公”
“はいはい”
“今日も一日だまされるでないぞ”
“はいはい”
ここで言う主人公は自分のことである。では、だますのは誰なのだろう。
一つは他人。もう一つは自分自身。大久保尚孝氏、伊丹万作氏の言葉を住職の問いかけから考えてみる。
“他人が他人をだます。”
“他人が自分をだます。”
“自分が他人をだます。”
“自分が自分をだます。”
これらは、無知と自分の中の軸がないことから生まれる。
内の規範を持つことで、他人に対しても自分自身に対しても責任を持つということになる。内の規範を自分自身の中につくり、自分の行動を変えていく。
そのための手引が同友会の理念だ。手引はあくまでも手引。経営者としての、人間としての自分をつくるのは自分自身。
自分自身にだまされないために、人は一生涯を通して学ぶ。
[文]栃木同友会専務理事
石綱知進