下野新聞「しもつけ随想」(平成27年2月11日)

下野新聞 2015年(平成27年) 2月11日(水曜日)

私たちは「中継者」

八木 仁

しもつけ随想(2015年02月11日)

当社は創業48年目を迎える。父の後を継ぎ、私が社長となり、19年目になる。引き継いでしばらくして「会社を創った時、こんなに長く続くとは思わなかった」と父がつぶやいた。

当時、父が社長の時には出なかった問題が噴出し「まったく後のことを考えていない!」と少しイライラが募っていたが、父の言葉で「創業者」を陸上競技になぞらえ理解した。

父たち「創業者」は、100メートル走だと思いスタート。それが、200メートル、40Oメートル…、やがて長距離となり、競技場を出てマラソン。疲れてきて「ああ、これは駅伝だったのか」と悟る。そして、そこから誰にタスキを渡すのかを考え始めるのか…。

「中小企業家同友会」は、1957年に東京で誕生し、全国47都道府県、約4万4千人の会員を擁する経営者団体である。個人事業主を含む中小企業経営者とその後継者、それに準ずるもので構成されている。

58年前、なぜ「企業家」という名称を使って設立したのか、経緯はわからないが、私はこの言葉に引かれる。

「企業家」と「経営者」は同義語で「企業家」の「家」は「者」と同じ意味だ。しかし、武道家、茶道家などの「○○家」は、伝統技能などを継承する者を意味する。結婚式の看板「祝○○家」は、一族や家族全体を意味するが、夫婦・親子の綿々としたつながりも想像させる。さらに大きくなると「国家」だ。「家」という字は、背景に縦軸と横軸、つまり「広がり」と「歴史」を背負った字だと思う。

いろいろな方から「企業は永続するのが原則」と教えられてきた。構成する従業員と代表、さらに大半のところは仕事も入れ替わることにより、企業は存続する。

そのためにまず「企業家」は、その代表として、先代たちが創り上げ、守ってきたものを理解し、良いところは継承し、おかしなところは改革して、企業のかじ取りを行う。そして引き継ぎ時期に向かって、先代からのものと、自分が積み重ねてきたものを、次の世代に託していく。

ところで昨今、後継者がいないことによる廃業が問題となっている。私は、この「後継者」という言葉に違和感を覚える。「後」の字に「前編、後編」で、物語の完結を連想させられるからだ。

私は「後継者」ではなく、「中継者」の方が妥当だと考える。

後任を選び育て、次の「中継者」が、意気揚々とスタートできるよう準備することは、前の「中継者」の仕事である。

タスキを渡レたとき「後は俺に任せろ!」とスタート。その背中を「頼もしい!」「あいつならできる」と感じながら送り出すことは、私たち「中継者」の夢だ。

当社に、父の創るものにあこがれて入社してきた者がいる。私たちも、この父親のように、まずは「あこがれ」、「目標」とされる「中継者」でありたいと思う。

県中小企業家同友会代表理事。
神奈川県出身。
民間企業に勤めた後、1985年に熱成形加工のシンデン(本社・小山市)に入社、97年から社長。「成長戦略の根本は人」とし全社員の年齢を構成表で管理。先輩から後輩への技術伝承に力を注ぐ。
小山高専地域連携協力会副会長。
法政大卒。茨城県古河市在住、55歳。

栃木県中小企業家同友会

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