去る10月3日(土)の発表会をもって2026年度・第12回「経営指針をつくる会」(以下、つくる会)が終了しました。今期の受講生は2名。ともに無事修了し、受講前とは明らかに異なる視点を得られたようだと感じています。
私は今年、初めてつくる会の主幹役を務めました。11年前に同友会へ入会して以来、毎年参加し、途中からはサポーターとして運営にも携わってきました。初めてサポーターになった際も立場による視点の違いに驚きましたが、今回、全体を取りまとめる立場になって、また新たな発見がありました。その視点から、今だからこそ皆さまにお伝えしたいことがあります。
今年、特に強く惑じたのは外部環境の激変です。国際情勢に伴う供給不安、物価や人件費の高騰、金利上昇、人口減少、そしてAIの急速な進歩。変化はその速度も規模も増しているように感じます。
中でもAIの進歩は凄まじく、活用次第では従来の人員や設備の制約から考えられないほどの生産性向上が起こり得ます。大企業並みの生産性を持つ中小企業が、ある日、自社の競合相手として現れるかもしれません。同規模の企業間でも、競争力に3倍、5倍、あるいは10倍という差が生まれる可能性があります。
また、約30年間、私たちは金利がほとんど上がらない世界に順応してきました。その前提で組み上げられた無数の仕組みが、金利上昇によってこれまでとは異なる作用を生み出すでしょう。最低賃金の上昇や人口減少も、企業の存続条件を着実に変えています。これまで成立していた価格設定や人員配置、顧客層を前提とした商売が、同じやり方では成り立たなくなるかもしれません。
つまり、これまで当たり前だった大前提そのものが動き始めているのです。これは自社の建物が立つ地面が隆起、あるいは沈下したことに似ています。建物自体に問題がなくても、地面が動けば手を加えなければ従来どおりには成り立ちません。経営も同じではないでしょうか。
だからこそ、業績の良し悪しにかかわらず、外部環境の変化と自社との関係を捉え、今後の影評を予測して手を打つ必要があります。好業績の理由を理解しているつもりでも、その背後にある深い因果関係まで把握できているとは限りません。環境変化は、その根底にある流れを変えてしまいます。今の業綾が良いという事実だけでは、これからも安泰だという根拠にはならないのです。
では何が必要なのか。私が重要だと考えるのは、外部環境と自社の現状を「できる限り正確に掴む」ことです。しかし、これが難しい。人間は無意識に現実を歪めて見ています。都合の悪い事実から目をそらし、見たいものを見て、信じたいことを信じる。しかも無意識だからこそ、自分では気づけません。
今回、主幹役としてカリキュラム全体を俯殿し、栃木のつくる会が、この「正確な現状認識」に明確な力点を置いていることを再認識しました。
同友会は「労使見解」や「人を生かす経営」に示されるように、人間の成長を重視します。理念を共有し、人を生かして強靱な会社をつくる「人間性」の考え方です。しかし、人間的な成長を支えるには、まず企業が存続できなければなりません。必要な利益を継続して生み出す・力は、同友会が重視する「科学性」の重要な側而です。物理的に生き続けられなければ、人間的成長の場も守れません。環境が変わった今、自社が生きられる科学性を再構第する必要があります。その土台が、正確な現状認識なのです。
そのために欠かせないのが、情報を「事実」と「解釈」に分ける力です。事実そのものは誰が見ても変わりませんが、その意味づけは人によって違います。解釈には願望や恐怖、思い込みが入り込みます。つくる会には、この二つを区分けする訓練が組み込まれています。解釈をいったん切り離し、事実を積み上げて現状を捉える。驚くほど基本的で地味な取り組みですが、経営判断の質を支える基礎力です。知識を増やすだけでは、自分に都合よく事実を解釈する癖はなかなか直りません。だからこそ、繰り返し訓練する意味があります。
例えば、売上が落ちたとき「景気が悪いから仕方ない」と考えるのは解釈です。売上が何%落ちたのか、客数と客単価のどちらが変わったのか、競合や市場には何が起きているのか。確認できる事実を一つずつ積み上げて初めて、打つべき手が見えてきます。自分にとって耳の痛い事実ほど、見落としていないか確かめる必要があります。
さらに栃木のつくる会は、会社の現状を調べるだけでなく、経営者自身を見つめるところにも時間をかけます。経営の舵を取るのは経営者本人です。自分が何を大切にし、どこへ向かいたいのかを知らないままでは、会社の未来を描いても、自分自身の本心とずれてしまう可能性があります。とりわけ事業を引き継いだ経営者にとって、自分の考えと会社の進む方向を確かめる作業は重要です。自分を知り、自社を知り、外部環境を知る。その積
み重ねが、経営指針づくりの出発点になります。
そして未来を考えるときにも、願望やご都合主義は忍び寄ります。そこで欠かせないのが他者の視点です。つくる会のサポーターは講師ではありません。答えを教えたり、特定の結論に誘導したりはしません。「それは事実なのか?」「本当にそうなのか?」「なぜそうなるのか?」と問いかけ、受講生自身では気づけない思い込みや論理の飛躍を浮かび上がらせます。現実に通用する経営の見通しを、自分自身の力で立てられるよう補助するのが役割です。だからこそ「サポーター」と呼ぶのです。
栃木のつくる会は、他県同友会の取り組みや一般的な経営計画セミナーとも異なる、独自の構成を持つと自負しています。自分自身を見つめ、会社を知り、外部環境を捉え、事実に基づいて現状を認識する。その土台の上に理念、方針、計画を組み立て、他者からの問いで認識の歪みを修正していく。
今回、主幹役として見渡したことで、その特質と強みは「思い込みや無意識の歪みを排除する仕組みが、カリキュラムそのものに組み込まれていること」だと気づきました。
もっとも、その本質は言葉だけでは伝わりにくく、体験して初めて分かることも、自身の経験から知っています。それでも、参加して後悔させない価値があると考えています。ただし、その価値を得るには一つ条件があります。「これまでの自分を書き換えることも厭わない覚悟」です。
思い込みを捨てることは、これまで当然だと信じてきた価値観を手放すことでもあります。望まない現実であっても直視し、受け入れて次へ進む。その姿勢があれば、つくる会は自分自身を再構築する助けとなり、経営者の変革は会社の変革へとつながっていくはずです。
偉そうなことを書きましたが、私自身も十分にできているわけではありません。だからこそ、仲間の力を借りて自分の思い込みに向き合い、今も学び続けています。11年間関わってきた今も、私はつくる会の受講生の一人なのだと思います。
激変する時代を経営者として生き抜くために、来期の「2027年第13回経営指針をつくる会」を受講してみませんか。皆さまのご参加をお待ちしております。
[文責]山寄 俊也(経営労働委員会経営指針をつくる会グループ運営委員長)]
タカマチ産業株式会社 代表取締役