No.194_コラム
Posted on 2026年7月31日(金) 15:19
コラム
AIを使っていて感じること
AIを使うようになって、改めて感じることがある。AIとうまく付き合うためには、AIそのものを知ることよりも、自分自身の知識や経験を整理し、それを言葉にできる能力が重要だということである。私は、このことを生成AIが登場する以前から経験していた。十年以上前、社員に「これを調べておいてほしい」と依頼し、インターネットで検索をしてもらったことがある。しかし、その社員は目的の情報にたどり着けなかった。そこで自分で検索してみると、数語入力しただけで目的のホームページが見つかった。当時は、「検索が得意だから見つけられた」のだと思っていた。しかし後になって振り返ると、違っていた。違っていたのは検索技術ではなく、基礎知識である。知識が違えば、検索するときに思い浮かぶ単語が違う。検索語が違えば、当然検索結果も違ってくる。つまり、検索とは知識を言葉へ変換する作業だったのである。生成AIでも、この構造は変わらない。
現在、私は一般公開されている情報から名簿を作る作業をAIに手伝わせている。しかし、思ったような結果を得るためには何度もプロンプトを書き直さなければならない。同じAIでも、命令文を少し変えるだけで結果は大きく変わる。なぜそうなるのか。AIは、人間のように「言わなくても分かる」という前提を持っていないからである。曖昧な指示を書けば、曖昧な結果が返ってくる。逆に条件を具体的に書けば、結果も安定する。仕事でAIを使うほど、このことを痛感する。遊びで相談をしたり、アイデアを出してもらったりするのであれば、多少AIが推測しても問題はない。しかし仕事では、推測では困る。仕事では、再現性のある結果が求められる。そのためには、AIが迷わないように条件を整理し、言葉で表現しなければならない。
現在の生成AIは、LLM(大規模言語モデル)と呼ばれる仕組みで動いている。AIは人間のように意図を理解して文章を書いているわけではない。学習した膨大な文章の中から、もっとも可能性が高い言葉を選び続けて文章を生成している。だから、曖昧な指示を与えれば、その曖昧さを埋めるためにAIは推測を始める。仕事で欲しいのは推測ではない。だからこそ、人間が曖昧さを減らして指示を書く必要がある。LLMの仕組みを知ってから、私は「AIは賢い」というより、「こちらの伝え方が結果を決める」と考えるようになった。日本には昔から「あうんの呼吸」という言葉がある。共通の経験や文化を持つ人同士であれば、言葉が足りなくても意思疎通できる。しかしAIには共通体験がない。一つの言葉から考えられる可能性が無数に存在する。だから、人間以上に曖昧な表現が通用しないのである。AIは、人間のように察してはくれない。
栃木同友会の「経営指針をつくる会」では、週二回、「事実」と「感情」を分けて短文を書くワークを行っている。受講生はLINEで近況報告を書き、それをサポーターが添削する。これを約四か月、三十回ほど繰り返す。最初は事実と感情が混ざった文章を書く人が多い。しかし、回数を重ねるにつれて、「起きた事実」と「自分が感じたこと」を分けて書けるようになる。私は、この訓練はAI時代に非常に意味があると考えている。AIは感情は動かない。事実と条件を整理し、必要な情報を言葉で伝えたときに、初めて期待した結果を返してくれるからである。ここで誤解してはいけないことがある。言語化能力だけがあればよいわけではない。言葉は器でしかない。その器の中に入るものは、知識と経験である。知識がなければ考えられない。経験がなければ判断できない。AIは知識や経験を持っているように見える。しかし、それは人間のように経験して得た知識ではない。だから、AIに何を考えさせるかを決めるのは、人間の役割である。知識や経験が豊かな人ほど、AIへ投げかける問いも深くなる。そして、その知識や経験を正確な言葉へ置き換えられる人ほど、AIから得られる結果も質が高くなる。つまり、知識・経験が思考を生み、言語化能力がその思考をAIへ伝える。このどちらが欠けても、AIは十分な力を発揮できない。
近年、文章を読む力が落ちていると言われる。『本を読めなくなった人たち』でも、その傾向が指摘されている。文章を読まなければ、文章を書く力も育たない。文章を書く力は筋力と同じである。使わなければ衰える。AIが文章を書いてくれる時代だからこそ、自分自身が読むこと、考えること、書くことをやめてしまえば、言葉を扱う力は少しずつ失われていく。
私はAIが普及すれば、仕事はもっと楽になると思っていた。実際、便利になったことは間違いない。しかし実際に仕事で使ってみると、AIが仕事をしてくれるようになったのではない。人間の考え方や伝え方が、これまで以上に問われるようになったのである。AIは曖昧な質問にも、それらしい答えを返してくれる。だからこそ、人間は曖昧なまま考えることが許されなくなった。AI時代になっても、知識や経験の価値が下がることはない。むしろ、その価値はこれまで以上に高まると私は考えている。知識や経験があるからこそ、本質的な問いを立てることができる。そして、その問いをAIが理解できる言葉に変換できて初めて、AIは本来の力を発揮する。AI 時代に求められるのは、知識だけでも、経験だけでも、言語化能力だけでもない。知識と経験を積み重ね、それを正確な言葉に変える力。この三つを磨き続けることが、これからますます重要になっていくのである。
[文責]石綱 知進(専務理事)
株式会社共立 代表取締役


