No.192_News Topic:栃木のNEWS
Posted on 2026年6月8日(月) 15:26
News Topic 03 栃木のNEWS
2026年度基調講演
“ふざけている”のではない、“戦っている”のだ
5月26日(火)、宇都宮ライトキューブにて、銚子電気鉄道株式会社代表取締役・竹本勝紀社長をお招きし、総会基調講演を開催した。講演タイトルは「絶対に諦めない」。
しかし今回の報告は、単なる“感動的な経営談”ではなかった。私はむしろ、「なぜ銚子電鉄は生き残れているのか」を、経営という視点で考え続けながら聞いていた。
銚子電鉄は、千葉県銚子市を走る全長6.4km のローカル鉄道である。平均時速は約20km。自転車YouTuberと競争したら負けたというエピソードまである。車両は昭和30~40 年代製で、導入時点ですでに中古車両だったという。「シニアモーターカー」という自虐ネタには会場も笑いに包まれた。
しかし、実態は笑って済ませられるほど簡単ではない。
鉄道事業の売上は約1.1億円。それに対して、ぬれ煎餅をはじめとした食品事業の売上は約1.9億円。本業より副業の方が大きいのである。しかも鉄道は設備産業だ。車両検査だけでも数千万単位の質用が発生する。観光資源も決して豊富とは言えず、普通に考えれば成立が難しい経営環境だと感じた。
では、なぜ銚子電鉄は生き残れているのか。
その答えの一つが、「弱みを付加価値へ変換する力」なのだと思う。
銚子電鉄は、「まずい棒」「鯖威張るカレー」「資金ショートケーキ」「お金クレープ」など、自社の厳しい経営状況を徹底的に自虐ネタヘ変換している。電車屋なのに「自転車操業」、お金がないことを「キャッシュレス経営」と表現し、苦境そのものをブランド化してしまう。
竹本社長は終始ユーモアを交えながら話されるので、聴講者はシビアなエピソードの途中でも思わず笑ってしまう。あまりにジョークが多いため、最初は「かなりふざける人だな」と感じたほどだった。実際“ふざけている会社”だとお叱りを受けることも少なくないという。
しかし、話を聞くうちに、それが単なる悪ノリではないことに気づかされた。
竹本社長は、AIDMAモデルやランチェスター戦略、資金収支分岐点分析など、極めて合理的な経営理論を土台として語っていた。つまり銚子電鉄のユーモアとは、「笑わせたい」からやっているのではない。「生き残るため」にやっているのである。
そして、その“生き残るための合理性”は、ネット活用にも表れていた。
前社長による1.9億円もの横領事件が起きた平成19年前後、銚子電鉄はすでにホームページを持ち、オンラインショップでぬれ煎餅を販売していた。当時としては、地方の中小企業としてかなり先進的だったのではないかと思う。
だからこそ、「ぬれ煎餅買ってください。電車の修理代を稼がなければならないんです」という切実な発信を全国へ届けることができた。
結果、1万人以上から注文が殺到し、会社は危機を乗り越える。
もしネット販売や情報発信の土壌がなければ、この反響は生まれていなかったかもしれない。
現在も銚子電鉄は、SNSや話題づくりを通じて広い市場へ情報発信を続けている。地方企業が地元だけの商圏で戦うのではなく、ネットを通じて全国へ価値を届ける。
この視点も、銚子電鉄の生存戦略を支える重要な要素なのだと感じた。
武器が少ないからこそ、人の注意を引き、話題を生み、情報価値を作らなければならない。だから徹底的に知恵を絞る。資金力に乏しい企業が、アイディアと情報発信によって付加価値を作り出している姿だった。
そして、その根底には「絶対に諦めない」という文化がある。
横領事件後、銀行からも融資を断られる中、唯一日本政策金融公庫(国金)だけが経営者の自宅担保を条件に融資を認めた。その際、綿谷専務という方が即断で自宅を担保に出し、資金調達を支えたという話にも強く心を動かされた。
経営トップではないにも関わらず、不安定な会社リスクを背負う。その行動には類まれな覚悟を感じた。
さらに綿谷専務は、「浮草を売れ」「たい焼きを焼け」と、小さな商売を積み重ね続けた人物でもある。
そこには、一発逆転を狙う経営ではなく、小さな行動を絶対に止めない文化があった。
正直に言えば、私は講演を聞きながら、「自分なら途中で心が折れていた」と何度も惑じていた。設備はいずれ老朽化し、地方人口も減少していく。未来は決して楽観できない。
それでも銚子電鉄は、知恵を絞り、情報を発信し、行動を積み重ね、人を巻き込みながら生き残っている。鉄道事業と食品事業は互いに価値を高め合い、今では「お化け屋敷列車」や「イルミネーション列車」といった“体験を売る事業”や、「アイドルマスター(ゲーム)」とのコラボを実現するほどのブランドカヘ発展している。
もちろん、その裏には失敗した無数の企画もあったはずだ。それでも挑戦を止めない。そして、成功した打ち手は人々の認知をつかみ、次の一手へと進化していく。
厳しさを増す経営環境の中で、一発逆転を狙わず、知恵を絞り、できることを積み重ねる。その姿勢には、中小企業が学ぶべき危機への抗い方があった。
「絶対に諦めない」とは、単なる精神論ではない。
文化であり、戦略であり、行動そのものなのだと感じさせられる講演だった。

[文責]山寄 俊也]
タカマチ産業株式会社代表取締役(県南支部長)


